【レビュー】町おこしを描いた異色アニメ「サクラクエスト」【評価】★★★★★
アマゾンプライムで春から2クール観ていたサクラクエストが遂に最終回を迎えた。
「女の子が国王に就任する」というあらすじとタイトルからファンタジーもののとんでも設定なアニメなのかと思って、一話目だけ観てみるか程度の気分で見始めたのですが、これが全然違ってとても良い作品でした。
むしろ話は、ファンタジー色ゼロ、実に地味な作風だが、しかし現代社会の問題を提起する興味深い作品でした。
「女の子が国王に就任する」ではちょっとあらすじとして不十分なので、もう少し詳しいあらすじを描くと、
これは新卒の女の子が田舎のミニ独立国の国王として就職、そして町おこしに奮闘する物語です。
ミニ独立国とは
さてミニ独立国とは何でしょうか?80年代生まれの私はまったく聞いたこともない言葉でした。
これは80年代に、日本国内において地域振興や自然保護運動の手段としてブームとなった活動らしい。地方に独立国を『建国』し、広く宣伝するする活動だったようです。
今でいう「ゆるキャラ」でしょうかね?
80年代にはたくさんあったミニ独立国ですが、乱立後、あっという間に衰退、現在ではほとんど存在しないそうです。
というわけで、「女の子が国王として就任する」というファンタジーかと思っていたあらすじも、全然そんなことなかったんですね。
感覚としては一日警察署長をタレントがするみたいなあんな感じ。
1話目で、これが現実にあり得る話なんだと知って、すっかり私は引き込まれました。
田舎の抱える、解決できない問題
といっても主人公のヨシノは、人気のある女優というわけでもなく、ちょっと読モをした事がある程度の一般人。
町で知り合った同年代の女の子4人とともに、一軒家に住み込み、アイデアを振り絞って町おこしに取り組んでいきます。
たくさんの地方問題が描かれます。
独居老人達の限界集落
大型スーパーの影響、そして住民の高齢化による商店街の衰退
バス路線の廃止
少子化による廃校
都会に住むものには想像もできませんね。これらの問題が簡単に解決できることではないということも丁寧に描かれます。
前半、町を外部に知ってもらう活動
ヨシノは巻き込まれ型主人公で最初は受け身で投げやりですが、だんだんその才能を発揮し、ユニークなアイデアと周りを巻き込む力で実行していきます。
前半の物語では外部の人を町へ呼ぶための宣伝として
C級グルメフェス
伝統工芸の宣伝
映画のロケ地としての誘致
村に住む独身男性のための出会いとして婚活ツアー
有名バンドによるライブ
などなど様々なことを考え、実行に移していきます。。
こういう活動はニュースとかで観ますよね。バックグラウンドには地方の思いがあるのかと思うととても興味深かったです。
たしかに、私も町の宣伝のためなら外部に知ってもらい、観光客が増えるのが一番な気がしました。
町を気に入って移住してくれるかもしれないし。
でもまあ、これらの活動で劇的に町が変わったりはしませんでした。
一時的にたくさんの人が来てくれたりはしましたが、イベント時以外はまた元に戻ってしまうのです。
そりゃそうですよね。仕事もあるし移住は簡単にはできません。。
徹底して地味というか、都合の良い展開に全然持っていかないんですね。
どんどん成功したでは、地方都市の問題提起にはならないし、リアルでとても良いと思いました。
そして後半へ、町を一つに
そして、ヨシノ達は気づくのです、地域活性化に本当に必要なのは、住人の意識が変わること、なにより彼らに町を愛してもらうこと。
後半は外部ではなく町の内部へと、視点を映し、活動していきます。
そして、今まで見えてこなかったことが見えてきます。
この町を愛し、移住してきた民俗学者や、様々なユニークな人たちとの出会い
忘れられてしまった歴史や文化
住民が抱いている様々な思い、町を活性化させようという思いを持って人はたくさんいたということ
物語は遠い昔に失われてしまった民話とお祭りを復活させるところでクライマックスを迎えます。
お祭りが盛り上がったからと言って、問題が全て片付き、簡単に変わるわけではありません。
それは登場人物たちによっても語られます。
ですが、これからの物語は町人たち自身で作っていくんだという意思と、新たなスタートを感じさせるとても良い締めくくりでした。
私自身、名古屋から東京に出てきたこともあり、田舎に帰るUターンやIターンは格好悪いと思い込んでいましたが、そんな選択肢も良いなと思わせてくれる作品でした。
最後まで地味な作風でしたが、主人公ヨシノのピンクの髪の毛だけは派手だったなぁ(笑)